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溫柔の夜

溫柔の夜

ほしいと切実に思った

近くまできていながら、越南自由行ただの一度もこの部屋に戻ってこなかった。

帰るたびに千晶の部屋に行き、整った部屋で快適な時を過ごしてきただけに、これからまたひとりの生活が始まるのかと思うとげんなりしてくる。

それほど二人で過ごした時間は充実し、僕に安らぎをもたらしてくれたのだ。

結婚の二文字が早く現実のものとなってほしいと切実に思った。



数日後、3ヶ月以上ぶりに実家に帰った。

次の休みに短線自由行、付き合ってる彼女を連れて行くよと言ったときの電話向こうのお袋の声といったら、今思い出しても笑えるほどだ。



『向こうで知り合ったの?』


『違うよ』


『違うの? じゃぁ、どこの人? まさか、合コンとか、そういうのなの?』


『いや、地元の子だから』


『出張の前に香港 倉儲知り合ったお嬢さんなの? あなた、お付き合いしている人がいるのにお見合いしたの!』


『違う、じゃなくて』


『わかるように言いなさい』


『見合いのあとっていうか、その時っていうか……じゃぁ、急ぐから切るよ』


『待ちなさい、脩平!』
   

おふくろの矢継ぎ早の質問に僕がはっきりしない返事をするものだから 『名前くらい教えなさい』 と最後は怒鳴るように問われ ”大杉千晶” という名前だけ教えて早々に電話を切った


両親の前でどのように話を持っていこうかあれこれ考えてはいたが、今回はわりと楽観視している。

お袋は千晶を覚えているだろうか。

友人の訃報に遠方からわざわざ葬式に行くくらいだから、千晶のお母さんとお袋はかなり親しく付き合っていたはずだ。

そんな人の娘との結婚に異を唱えることはないだろうと思われる。

親父にいたっては ”お前が選んだ人なら反対しない” と普段から言ってくれているので、どこの誰であるかさえわかれば問題ないだろう。
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